赤ちゃんポスト視察
少し前の話ですが、自民党女性局の主催する「子どもHAPPYプロジェクト」視察に参加し2007年5月に赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)を開設した熊本県慈恵病院を訪ねてきました。
設置にあたっていろいろと議論が起きた赤ちゃんポスト。
実際に携わってらっしゃる方から話を伺えるチャンスはとても貴重でした。


病院の敷地内に入り、赤ちゃんポストの看板が見えてくるとなんだか緊張します。
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<開設まで>
慈恵病院は明治34年にフランシスコ修道会により設立。敷地内に修道院があるなど、キリスト教の精神に基づいて運営されている病院である。病院内に礼拝堂もあり、母親の心の相談を受けてきた歴史を持つ。
かつては病院に隣接して愛児園があり、病院近くの修道院に捨てられた子供を病院にて保護したこともあった。子供にまつわる事件が増える中、病院のある熊本県内でも赤ちゃんを捨てる事件が続き、赤ちゃんと母親を救えなかったことに苦悩を感じる。そんなとき、中世より修道院に子供を預けてきた歴史があり、2000年より設置された赤ちゃんポストが80か所以上となるドイツを視察。赤ちゃんポストの設立に取り組み、2007年4月に許可証交付となった。
<赤ちゃんポストの仕組み>
ドアをあけて赤ちゃんが中に入るとチャイム→ドアは外から開かなくなる。
(チャイムが鳴ってから赤ちゃんのところに駆け付けるまで40秒。毎月トレーニングを実施)
ポストの中には、ドイツで採用されている手紙を参考にした親宛の手紙を置いている。
<情報公開について>
単独では行わず、行政と連携して2008年3月末に発表。
2007年5月~2008年3月までに預けられた赤ちゃんは17人
男児:13人、女児:4人
新生児:14人、乳児:2人、幼児:1人
健康:15人、要診察:2人(虐待の疑いはなし)
<赤ちゃんの父母について>
置いてある手紙の持ち出し:13人
事後接触:5人(当日、1週間、1か月以内。うち1件は引取)
居住地 不明:8人、中国地方:2人、関東:2人、九州:3人、中部:2人
⇒赤ちゃんの出自を知る権利はある程度守られている。
<意義>
赤ちゃんポストばかりが注目を浴びるが、「命を守ることに誰が、何ができるか」を根本に、
実際は相談機能の拡充が主な目的である。
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(病院の敷地内に入ると、赤ちゃんポストに至るまでの道には母親へ相談を呼びかける看板がいくつも)
お話をしてくださったのは看護部長の田尻由貴子さん。
寝る時も携帯電話を傍らに置き、深夜の相談にも対応されています。
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慈恵病院では3名体制で24時間フリーダイヤルの相談事業を行っており、初回相談のみで501件に上る。またこれに加え、メール等による相談は244件。
501件の電話相談のうち245件は実名を名乗り、11%が来所相談につながった。
36名は自分で育てることを決め、10代の妊娠のうち25名は養子縁組となる。
養子ときまった子供は合計で66名。
預けられた17人だけでなく、相談により何人もの親子が救われている。
母体保護法では22週を過ぎると中絶ができなくなり、10代の妊娠は決断ができないまま時間が過ぎ、産む選択をせざるをえない状況にある。
ドイツでは妊娠相談員が全行政区に配置され、相談員の証明がなければ中絶できないシステムになっている。
慈恵病院が赤ちゃんポストの設置を決めたのは、捨て子の助長などではもちろんなく、生まれてくる子供、生まれてきた赤ちゃんと母親をいかに救うか、ということ。
慈恵病院での取り組み以降、熊本市では800万円の補正予算を組んで9人のスタッフで24時間対応の妊娠相談窓口設け、市・警察・児童相談所の連携による相談機能の充実を図っている。
また、赤ちゃんポストの設立以来、養子縁組を希望する問い合わせは1年間で200件以上に上ぼっているが、現在の法律では養子を実子として戸籍に記載することのできる特別養子縁組には原則として実父母の同意が必要であるため、「まずは相談を」と呼びかけている。
<課題>
相談のうち、県内からの相談は35%にとどまり、相談窓口のネットワーク作りが課題である。
<その他の取組>
慈恵病院では、赤ちゃんポストや相談業務に加えて、助産師さん派遣による「いのちの教育」や講演を行い、命の大切さを伝える活動をしている。
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今回、慈恵病院でお話を聞いてずっと頭に浮かんでいたことがあります。
2005年にスタンフォード大学の卒業式で行われたAppleとPixerのCEO、
Steve Jobsのスピーチです。
有名なスピーチなので、ご存知の方も多いかもしれません。
今年の成人式の頃に当時使っていたgooブログでも紹介したのですが、このなかでSteve Jobsは自分が生みの母にとって「予定外の子供」であったと話しています。
未婚の母となったSteve Jobsの生母は、赤ちゃんを養子に出すことを決めていました。
もらい手が大学の出であることを強く希望し、弁護士夫妻に引き取られる予定でしたが、その夫妻が女の子を希望したために実現しませんでした。
そこで、Jobsの親になる人のところへ電話がかかってきました。
「予定外の子がいますが、ほしいですか?」と。
ところが、夫妻の母親が大学を出ておらず、父親が高校も卒業していないことを知ると、生みの親はサインを拒否しましたが、大学を出すことを条件に話がまとまったそうです。
このJobsのスピーチはそれ自体がとてもすばらしいのですが、
初めてこのスピーチを見たときに、「予定外の子供がいますがほしいですか?」
というセリフにまず面食らいました。
そして養子に出す親は何の引け目もなく、さらに「大学出」という条件をつけ、そのうえその条件に合わないとなるとサインを拒否するという、そのアメリカ社会に改めて驚き。
生みの親は、自分が未婚の大学生であったにも関わらず、いうなれば「強気」です。
アメリカは養子縁組が盛んな国で、養子がごくごくありふれた、あまりにも当たり前なことだからでしょう。
慈恵病院で話を聞いている間にどうしてこのスピーチが浮かんできたかというと、アメリカほどでないとしても、養子縁組というシステムが社会的一般的に受け入れられて選択肢の一つとなっているなら、赤ちゃんを一人で抱えて悩んだり、さらにはどこかに捨ててしまうなんてことも少なくなるのではと感じたのです。
最後の質疑応答の時間にこのことについて聞こうと思ったんですけど、質問者多数・時間切れで実現できませんでした。
残念。
赤ちゃんポストは24時間体制。
かたときもエアコンは欠かせません。
やはりいろいろなご苦労があるようです。
田尻看護部長に挨拶をした際に、私たちが東京から来た事を知ると関東からの相談もとても多く、なんとか支援のネットワークをつなげていきたいとおっしゃっていました。
慈恵病院の取り組みは本当に大変なものです。
「神様から授かった尊い命を救いたい」という強い信念がスタッフの皆さんを支えているんだなと感じました。
また、そのような強い宗教的な思いがなければ実現(と継続)の難しい取り組みなのではないか、とも。
相談窓口の連携、ネットワーク作りをどのように達成していくか、病院のみなさんの温かさに癒されながらも、同時に事の難しさに重苦しい思いを感じた視察でした。
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